続けてもいいから嘘は歌わないで

同人作家の同人以外の雑記が主です

君はJAXAが誇るSF小説を読んだか!?

「太陽系よ。まずは、火星で生命を見つけるのよ。」

ほう。火星に生物がいますかね?
NASAは、存在しないと言ってるぜ?


 「私が開発している世界最高感度の生命顕微鏡を使えば、必ず火星に生命は見つかるのよ。NASAが今までやってきた生命探査なんか、全然駄目よ。もし宇宙人があんな感度の低い装置を使ってサハラ砂漠で生命探査をしたら、『地球に生命は存在しない』って、結論づけてるわよ!」

(14/04/29 JAXAメールマガジン501号「YOKOHAMA CRAZY NIGHT」)

JAXAとは日本の宇宙開発の基礎から運用までを支える研究機関だが、そのJAXAの麾下組織、ISASメールマガジンの配布が終わってしまったことはあまり知られていない(気がする)。しかし心配は御無用でバックナンバーがHP上で無料公開されている。

 

このメールマガジンにはJAXA所属の方々のエッセイのような文章が毎回付いてくるのだが、これがなかなかに面白くてためになるのだ。研究者が自分の専門について語ったり、事務の人たちがお金の管理やイベントの準備について語っていたり内容も多岐にわたる。メルマガという媒体ゆえかなり平易な文章になっているので子供が読んだら興奮必至だろう。

 

そんな研究者然とした文章の中に、一際SFめいた文章があるのを見つけることが出来る。何しろタイトルが

  • 第501号:YOKOHAMA CRAZY NIGHT
    第289号:2058年の少女へ
    226号:タオルミーナの休日
    第191号:ゼッケン39番、救助を要請します
    第142号:ブラックホールとパウリの夢
    第101号:サハラの友達

である。良い意味でJAXAくさくない一連のタイトルのエッセイを書かれたのは海老沢教授という方だ。Wikipediaで調べてみるとなんかご高名な(失礼なほどに当たり前だが)な方であるし、多趣味だとも記されている。実際191号のエッセイはバイクラリーで遭難しかかった夜に空を見上げて思索にふけるという内容だ。

僕は天の川からのX線の謎を、どうしても解き明かしたい。その起源が星間空間に満ちた高温プラズマであることを示したのが、僕の研究者としてのキャリアで最大の成果であるはずだったのに、もしかしたらそれは最大の間違いだったのかもしれない。でも、そんなことはどうでもいい。僕は自分が生きている間に、どうしても本当のこと、この宇宙の真実を知りたいだけなんだ。もし、誘惑の悪魔メフィストが、宇宙の真理と僕の命の交換を持ちかけて来たら、僕は喜んで取引に応じるかもしれない。

(08/05/13 JAXAメールマガジン191号「ゼッケン39番、救助を要請します」)

この文章、明らかに研究者が実験結果を記すそれではない。冒頭に挙げた「YOKOHAMA CRAZY NIGHT」は叙情的な男女の会話が宇宙の誕生へとつながっていく会話劇であるし、「タオルミーナの休日」は地中海、タオルミーナで行われる研究会での出会いを綴ったもはや小説である。

 

その白眉とも言えるものが「2058年の少女へ」だ。もはやこれはSF短編と言っても良い一つの文学作品である。

2058年、ある秋の一日。あなたは相模原の宇宙科学研究所で、世界初のX線干渉計衛星のプロジェクトマネージャとして、衛星から降りてくる最初のデータを待っている。自分が開発した観測装置が最初に生み出す宇宙からの光、「ファーストライト」を真っ先に見ることは、天文学者として最大の喜びだ。それは、M87という銀河の中心にあるブラックホールX線写真。それをあなたは50年間、まっすぐに追い続けてきた。

話の中心はブラックホール。場面は2058年の宇宙研究所でデータを見つめる女性から始まり、ブラックホールの本質について滔々と述べられていく。この誰ともしれないモノローグが話の終わりを語ったとき、モノローグの正体と滔々と語られた知識が結びついてそこに科学史が現れるのだ。これは科学の物語だ!と初めて通読したとき痛く心が揺さぶられたものだった。

 

話のネタあかしはしないが、是非読んでみてほしい。そして興味が湧いたら他のバックナンバーもおすすめだ。全てにアカデミアが詰まった良質な文章がたんまり眠っている。いや、ホントおすすめ。

 

 バックナンバーリンク

ISAS | 2014年 / ISASメールマガジン

 

 ※記事内でJAXAISASがごっちゃになっているフシがあるがそこは許してほしい