続けてもいいから嘘は歌わないで

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毛狩り隊に襲われる

脱毛をした。都内の車内広告の4割を占めるというアレである。脱毛をするという事は体毛に何らかのネガティブな感情を抱いていることの証拠でもあり、自分のそれが何かというと学生時代授業中寝る時に腕を枕にして寝る体勢を取ると腕の毛がふわふわして鼻孔をくすぐり寝にくいという一点に尽きる。そもそも社会人はそんな姿勢で寝ないし。結局、脱毛のきっかけというのは誕生日付近に届くダイレクトメールだったのだ。500円なら散髪のついでにやっておこうかな、なんて軽い気持ちである日エステサロンに向かった。

 

メンズサロンの受付で問診票を書きながら待機していると二人ほど常連客らしい人達が入ってくる。そもそも脱毛は一日にしてならず、何回も通って毛を根絶していく長期的な治療なのだ。意外と美容脱毛(主にヒゲの脱毛)はカジュアルに行われてるなーなんて思っていると、脱毛体験の説明が始まる。

 

体験プランの説明を聞いていると、なんだか違和感があった。体験ダイレクトメールには「スーパー脱毛プラン150本できます」と書いてあるが、そもそも脱毛の方法には2種類あるらしい。片方はレーザー脱毛、もう一つがスーパー脱毛である。スーパー脱毛は毛穴を電気で焼くという体毛根絶の度合いが高い脱毛法であり、痛いらしい。痛いのは嫌だからレーザー脱毛にしようとすると、それはダイレクトメールの対象外だと言う。しょんぼりだ。結局毛穴を電気で焼かれる刑(古代中国にありそう)に処されることになった。手術台に寝かされ、腕にひんやりとしたジェルを塗られる。「チクッとしますからねー」という言葉とともに髪の毛くらいの針が毛穴に挿入される。

 

痛!!

 

いや、注射ほど明らかな挿入感はないが痛覚は明確に反応している。我慢できないほどではないが身構える必要のある痛みである。狼狽する私をよそに施術は続く。焼く前の肉にフォークで穴を開けるような気軽さで毛穴が焼かれていく。10回ほどそれが繰り返されたあと、サロンの人が言う。

「これくらいならアフターケアがいりませんが、ここでやめますか?」

ダイレクトメールの効力をフルに発揮すればあと140個の毛穴を焼くことができる。私は静かに微笑んで「やめてください」と言った。

 

かくして10個の毛穴が焼かれた。帰り道、ふとボボボーボ・ボーボボの世界観を思い出した。あの世界では毛狩り隊という無法者がのさばっていた。当時は笑っていたが、今なら理由が分かる。毛穴を焼くのは痛いからだ。少し毛が減った手の甲を冷たい風が撫でていった。