続けてもいいから嘘は歌わないで

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ふだんづかいの倫理学

『ふだんづかいの倫理学』を読んだ。個人的にはとても良かった。

タイトル通り、倫理というものが普段我々が暮らしている日常の上でどのように適応されうるか(もちろん成立を考えれば矢印が逆だけど)を豊富な例を盛り込み懇切丁寧に教えてくれる本だった。

 

もともとこの本を読んだきっかけは「正義」の章の抜粋を読んだからだった(このことは以前に書いた)。本の中ではこれは社会の倫理として紹介されている。他にも個人、身近な関係を挙げ計3つの領域の中でそれぞれに倫理がどのような形で作用しているのかを考えていく。各領域における倫理とは、社会は「正義」、個人は「自由」、身近な関係は「愛」である。本の中ではこれらの言葉をさらに分類し、更にそれらに対応する倫理も細かく分類してくれる。ありがたいなぁ。

こう見ていると、どれもこれも極端な例が想起される言葉ばかりだなと思う。そう、これらについて一人で考えているとどうしても極端になっていく(本著ではその極端さがそもそも思考の方向性が違うことに起因する、みたいな例も挙げられているが)。それを極端でなく、確実に推し進めていくための一助がこの本だと読後に思った。

社会にしろ人間の関係にしろ、問題は山積している割に全体像がつかめず、例えば「この山をなんとか乗り越えて見晴らしのいい場所に行きたいけれどどうやって登れば良いのか、最初の一歩目はどこに踏み出せば良いのか全くわからないなぁ」ということが多い。もちろんいろんなコースはあるのだけど「どうにもうさんくさい」というルートが無数に設定されている(SNSのアイコンに国旗が書いてある人ルートとか、トレンドワードにひたすらハッシュタグつけて『こんなに稼げました』という言葉とともに札束の写真を上げている人ルートとか)。

そんな時、「このルートは確実に山頂につながっております。途中までだけど。あとこの道ぬかるみがやばいけど」というのを教えてくれるのがこの本なのだ。途中まで、というのはもちろん山頂が1つでなく人に応じてそれぞれの山頂があるから(山頂って例えが良くない。~合目でいいですか)で、ぬかるみというのはこの道が格段に思考力を要求してくるからだ(本読んだのにたとえで説明するバカさ!)。でも確実に前に進める道なのだ。それを選べるか、選ぶかどうか考えられるかどうかが大切なのだ。

 

何が言いたかったのか忘れたけど、とにかくいい本なのだ。最後に本を読んでよかった例を1つ。

3.11で奥さんを失って意気消沈していたおじさんが町内会のみなさんとのふれあいで笑顔を取り戻し最後には村の祭りのたいこを力いっぱい叩く、みたいな映像を最近見た。そしてこのVに「良かったね」でなく「これはあれだ!」と思えるわけである。おすすめです。