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同人作家の同人以外の雑記が主です

平野啓一郎『私とは何か 「個人」から「分人」へ』

11年前の本だが、今読むとここに書かれている『分人』という考え方はより必要とされる(もしくは車輪の再発明的に似た考えにたどり着いた人も多そう)と感じた。本書で『分人』というのは個人をさらに分割する単位として提唱される。重要なのは『分人』が自身で作り出すのではなく他者との交流の中で自然に作り出されるものだとされる点で、個人はそしてその『分人』の割合によって作られるとされる。つまり個人は自分でだけ作られるものではなく他者によっても形作られるのだ(もちろん自分で作れる『分人』の例も出てくる。自分探しの旅で作られる『分人』とか)。作者はこの『分人』を使うと生きやすくなるという。わかる~
本書は小説家が書いているのでこの『分人』思想がいかに作られ作中に反映されているかも語られる。その裏話的な面でも結構面白い。気楽に読めて人生への影響も大きそうないい本です。

ちなみに分人型社会システムというのが総務省のPDF(https://www.soumu.go.jp/main_content/000780363.pdf)にありまして、個人を分割する分人単位でコミュニティを作成する、より具体的に言えばプラットフォームごとの分人にある種の権利を認めるということを言っている(Twitterの俺、はてなの俺…)。その意味は仮想人口の増だとありつまり俺という個人は分人だと3人にもなれるみたいなことが書いてある。すげー。でもこれって博報堂が「消齢化社会」と言っている現象ともつながる

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年齢というのは個人に紐づく大きい指標だがそれが生き方へ及ぼす影響はどんどん小さくなるという見立てがそこではなされていて、それに変わる実質年齢みたいな指標が提唱される。そこでは人々が年齢ではなく好みで分けられ語り合う未来が描かれていてそれって分人の考え方に近い。このように社会の単位を個人から変えようという試みや考えは今勢いづいていて、多分その根幹は分人というワードで説明できてしまうのだ。