続けてもいいから嘘は歌わないで

同人作家の同人以外の雑記が主です

現代思想『〈投資〉の時代』特集を読む

現代思想の『〈投資〉の時代』特集を読んだ。自分は投資を言われてやっているが、実際その営みがどう捉えられるものなのかを理解していない。それが財テクとして得をする以外にどういった作用があり歴史的にどういう位置づけがなされるのか、そういった投資への別視点を得るために手に取った。結果的にそれは成功だったんじゃないかという満足感がある。全部は読めてないのだけど各論考から面白かったものをざっくりと。

『生存をめぐる保障の投資化』金井郁

生命保険営業職のインタビューなどをもとに生命保険という商品が戦後日本でどのように買われ売られてきたのかという論考。生命保険が家族やジェンダーという世間の潮流と密接に関係しているというのは言われればその通りだし、さらに最後に語られる生命保険の『労働者の身体に対して保険をかけるという意味でのリスクヘッジを促し、(中略)人的資本としての人間の重要性をますます際立たせ、自己責任化を推し進める』という側面には全く考えが及んでなかったのでなるほどな~という感じ。

『貝殻貨幣経済における老人のマネープラン』深田淳太郎

貝殻貨幣経済?とヤーレンズばりに頭を捻りたくなるがパプアニューギニアには貝殻(タブ)が法定通貨と同様に流通する地域があるらしい。そしてその貝殻は流通するだけでなく儀式、特に葬式の際の儀礼的な装飾にもなりその装飾を作るためにタブは貯め込まれる。しかし他の儀礼にはタブを払う必要がありタブを払う行為にも人間関係が関わってきて…という異文化フィールドワークとして非常に面白い話なのだけど、それをいわゆる世代間正義としてタンス預金に絡めているのが面白い。後半の貨幣君主論に根ざした部分も読み応えがあった。

イーロン・マスク ピーター・ディール ジョーダン・ピーターソン 「社会正義」における逆張りの系譜』 木澤佐登志

Xにおける「新官房学」的な行いが目立つイーロン・マスク、ペイパルを作ったピーター・ディールはスタートアップ的な加速主義が今の停滞した資本主義に革命をもたらすと言う考えを持っている。そして彼らが促す「起業せよ」という文言は60年代カウンターカルチャーの系譜であり、しかしカウンターカルチャーが目指した資本主義からのドロップアウトは忘れ去られあくまで現代のテックカルチャーは資本主義の中のドロップアウト、つまり起業を説いているという話はとても面白い。そしてテックカルチャーはある種社会正義への逆張りという性格を持っており(ハッカーは自由である)それがIDWという優生思想的なリバタリアン言説をも生んでいるという部分は今のXを見ているとこう、あーああいう…という思いにならなくもない。

 

という感じで他にも色々読み応えがあったこの特集、おすすめです。いやほんと、資産運用と自己啓発と自己責任論って根っこが一緒じゃんみたいな、儲かれば嬉しいという一面的な考えでお金を使う怖さを考えなくてはならない。なぜならお金はとても大事なものだから…。