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暇と退屈の倫理学を読んだ

暇と退屈の倫理学を読んだ。と、言って書物の要約を記すことはここではしない。もちろん論旨の一部分を紹介したりはするけれど。それは本書の結論は、つまり「人間は暇と退屈に対してどのように向き合うべきなのか?」という問いに対する答えは、非常に明確に与えられかつその一つが『暇と退屈の倫理学を読むこと』だからだ。

 

まずこの本の良いところは読みやすいところだと思う。始まりに「本書は通読されることを目的にしている」と明言しているように口調は穏やかで、章が終わるごとに各章の結論、そしてその結論がどのように本の中の論旨に位置づけられるか、それを踏まえて次の章では何を語るかをまとめてくれる。数々の名著からの引用も多くそれらを噛み砕いて解説をしてくれる。とても読みやすくて良い本だった。

そしてその読みやすさと裏腹に語られる倫理、暇と退屈とは何かという話は先史時代を発端にし近現代まで時系列を追って複雑に語られる。個人的には「暇と退屈は定住生活を選択したことによって生まれた」という話は非常に面白くて共感してしまった。自分が旅行が好きだからかもしれないが、放浪したいとか部屋の中でじっとしていられないという話にはうなずくところが多かった(そしてゴミ出しをできないという部分も)。

 

また浪費と消費の違いというのも面白い。常日頃からTwitterソーシャルゲームの悲喜こもごもを眺めている身としては感じ入る部分があったけれど、たしかによく言われる「消費社会ってダメだよね」みたいな言説にさらに踏み込んで語っていてなんというか非常に染み入る。ちなみにその消費の典型とも言える博報堂と著者の対談がこれです

www.hakuhodo.co.jp

 

そしてハイデガーを下敷きにして語られる「暇/退屈である/でない」の形態の分解と再構築も面白い。ハイデガーの分類を鮮やかに展開して「この世はでかい気晴らしでありその中で気晴らしをすることは退屈だ」という結論に至るところは普通に興奮した(暇の反対は興奮だし…)

 

とまぁこれ以上内容は語らないが(語ってるけど)とにかく本書を見ると世の中(Twitter)の見え方がだいぶ変わる。そして驚くほど自分の人生が暇であり退屈であり気晴らしであるという事実が迫ってくる。そしてそれはどうやって生きるかという問題とほぼ等価なのだ。