続けてもいいから嘘は歌わないで

同人作家の同人以外の雑記が主です

東北3県旅行③〜ダリ美術館編〜

朝の6時、目を覚ますとゲストハウスは静かな寝息に包まれていた。流石にこの時間に出る人はいないようだ。手早く荷物をまとめ、チェックアウトした後はバスターミナルに向かう。行く先は郡山だ。

バスターミナルの場所を探すのに苦戦したが、無事乗車は出来た。始発便だからか車内に人はまばらだった。2時間の行程の内半分を寝て過ごし、もう半分はうつらうつらしていた。8割寝ていた。

郡山駅にも来たことがある。以前ここに旅のトランクを忘れ、余った18きっぷで単身取りに行ったという意味不明な思い出がある。日本には宅急便があるのに。とはいえそんな郡山駅に着くと全く人気がない。郡山市民はみんなニチアサを見ているのだろうか。レンタカー屋に行き、レンタカーを借りる。向かうは猪苗代湖の更に奥、諸橋近代美術館だ。

美術館までは郡山から一時間半ほど。高速道路を抜けるとひたすら山道を登っていく。初日の乳頭温泉へ向かう道を自分で運転するような感覚だ。クラスが一番低い車なのでアクセルがへにゃへにゃだがなんとか上っていくと、モダンな建物が姿を現した。

 

諸橋近代美術館はサルバドール・ダリの作品を所蔵する美術館だ。ダリの作品は日本にあまりなく、福岡の方に少しあるぐらいらしい。ダリは何年か前に東京でも回顧展を行っていたが、あまりの人の多さに行けなかった悲しい過去があるのでこの美術館に来るのは念願だったのだ。

ダリと初めて邂逅したのは高校生の時である。無駄に広い学園の図書館の隅に美術書のコーナーがあった。大判で世界各国の芸術家の絵が載っているような本だ。選択科目で「芸術」を選んだ私は(「音楽」は何もできないし「書道」は字が下手なので選ばなかった。一番人気は書道だったし、私が頑張って書いた字の評価をやる気のなさそうな運動部のお歴々が仲間内で書かせた作品で超えていくのを見ているのが耐えられなかったからだ。いや、本当は本当に字が下手だからだ)模写の課題の手本にする絵を探していた。なんだか淡い色使い間面倒そうだしと思っていたときに見つけたのがダリの「燃えるキリン」だった。この作品に一目ぼれし、模写の課題はそれで提出したし他の作品も図録で読み漁った。ダリはめっちゃ絵が上手い(表現力のなさ)のにいろいろやっていてすごい(表現力のなさ)。

そんないろいろを見るために諸橋近代美術館はうってつけなのだ。

中に入るとウナギの寝床のような奥に続く空間に立体作品がずらりと並んでいる。その空間を左に折れたところに沿うように4つの展示室があり、そちらは主に絵画の作品が埋めているといった感じだ。

作品はダリの活動年譜に沿っており、その詳細は割愛する。しかし、線画も塗りもレベルが違いすぎる。作品を間近で見てもその独特なグラデーションと圧倒的な質感の表現がどこから生まれているのかさっぱりわからない。なんでお前は70超えて「写真の網点を手書き作品に取り入れた表現」をやろうと思ったんだ。めっちゃかっこいい。

白眉は最後、建物の奥にある「テトゥアンの大合戦」だ。3×4mの大作について語ることはとても出来ないのだけど、大画面である故に感じられる筆致と描き込みに数分圧倒されて立ち尽くしていた。ぜひ見に行ってほしい。

 

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ダリの作品を立体化したソファにも座れる

正直今回の旅程のメインはここであり、コーヒーを飲み外に出た時点であとは蛇足の旅になった。とりあえず山道を登り、ハンバーグの店に行きほぼ貸切状態でハンバーグを食べた。美味かった。

ここらは山体崩壊により五色沼をはじめとする様々な沼が点在している土地である。微かに雪が残る沼を写生する学生や、トレッキングを楽しむ中高年を見つつ猪苗代湖へと向かった。

猪苗代湖の湖畔には道の駅があり、たいそう賑わっていた。とりあえず道の駅ってすごく混むけど、好きだけどそんなに長居するところなのだろうか。雑な土産(福島に行ってきましたクッキー)を買いほかの湖畔の施設をぶらぶらする。どうやら野口英世とか猪苗代ラーメンとか、その辺が人気らしい。しかしどこも少しうら寂しい雰囲気があり、何となく楽しい気分にならない。何となく車で走ってみるも、猪苗代湖の巨大な波打際に立ち尽くすくらいしかすることがなかった。ぶっちゃけ暇であった。あまりに暇を持て余したので、郡山への帰りは下道を使った。途中磐梯熱海という温泉街を通りかかったがどこで降りるか考えているうちに通り過ぎてしまった。だいぶ味のある風格だったのだけど。

 

そして郡山へ戻ってきたら本格的に帰りである。ただ新幹線に乗り込み、帰宅した。

 

そして家に着いて思うのだ。やっぱ自室は最高だぜ!

 

(おわり)

 

東北3県旅行②〜サカナクションライブ編〜

旅の朝は早い。

6時に起き、朝風呂で脳に熱を与える。

これまた美味しい朝ごはんを頂いてから温泉郷の始発バスで宿を発った。向かうは田沢湖である。

流石に早朝だったからか湖畔にある立派な駐車場とレストランにはまだ人はおらず、出勤したての従業員が駐車場を掃除している。まぁ8時だし。田沢湖の観光は次のバスに乗るため1時間弱で終わらせる必要がある。といってもあるのは馬鹿でかい湖だけなのでとりあえず波打ち際に向かった。

朝の湖は穏やかなのか、周りを囲む山々が水面に反射して綺麗な線対称を作り出している。水もエメラルドグリーンでとても綺麗だ(語彙力がない)。そしてそれ以上に羽虫が飛び交っている。なんだこれは。朝だからなのか。基本的に数の暴力が嫌なので這々の体で逃げ出して、辺りを散策することにする。何もなかった。あまりに湖が広すぎてシンボル扱いの金色の像も二桁キロ先にあるのだ。景色はとても良いし朝の静寂は心地よかったがここは徒歩で見るところではない気がする。多分ツアーガイドさんがいれば話術で乗り切れるのだろうけど。

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水面が山々を反射している

そんなことを思いつつ雄大な自然を眺めていると駅に向かうバスが来た。いそいそと乗り込み、田沢湖駅に着く。新幹線まで時間があったので辺りを散策し田舎を堪能した(こういうのが好きなのだ)。『我々はさらなる発展をしていく』と昭和半ばに書かれた石碑が立っているなんて、いいじゃないか。

そして駅に戻り、新幹線に飛び乗って盛岡に着く。盛岡では相変わらず何もしなかった。じゃじゃ麺を食べ、ドトールでブログを書いた(1日目あたり)。

そしてまた新幹線に乗り、向かうは仙台だ。サカナクションのライブである。付け焼き刃的にGooglePlay MUSICでアルバムを聴きながら仙台に着くと、そのままライブ物販へ向かった。

今まで行ったライブは全て物販がえらく混んでいるイメージだったが、今回は拍子抜けするほど簡単に買えた。お陰で隣のゼビオでキャンプ用品を漁る時間さえあった。悠長にこんなことをしているのは宿のチェックイン時間が意外と遅かった為で、なんやかんや時間を潰しチェックイン時間を少し過ぎた頃宿であるゲストハウスに到着した。ゲストハウスというと海外の旅行客向けの安宿であるが、日本人と同室になることも多い。そして今回はバッチリ外国人に囲まれていた。ドイツ人と二言三言英語を交わしたが、ヨーロッパ旅行でさえ話さなかった英語は錆びついておりとりあえず「外国は顔で語る文化があるから眉を動かせ」というインターネットインテリジェンスに従って眉を上下させることに専念した。向こうからしたら「俺はズンダが苦手だ」と表情豊かにいうヤバいやつだったに違いない。

と、まぁ無事物販で買ったTシャツ

とタオルを装備し、意気揚々とライブ会場に再び向かったのであった。

【ここから先はサカナクションのライブ1日目のネタバレ、セトリバレが存分に含まれている。】

 

とりあえずライブ全体の感想を先に書くと、どデカイダンスフロアがそこにあった。サカナクションはロックバンドではなくダンスミュージックバンドなのだ(今更?)。

今まで行ったライブは山下達郎であり、perfumeであり、アイマスである。山下達郎アイマスは少しライブの王道とは外れている(山下達郎はおそらく客の年齢に配慮があるし、おそらくアイマスもそのうちそうなる)ので近しいのはperfumeだろうか。オルスタだし。めっちゃ踊るし。

だがライブの序盤は完全にロックバンドのそれだった。アルクアラウンド から始まり陽炎でしめる一連の流れは最初からボルテージをマックスにさせるにふさわしい。

そしてこの辺から6.1サラウンドだとか映像の美しさ、演出のヤバさが浮き上がっていく。いや、序盤からだいぶやばかったけどね。始まり方かっこよすぎる。

 

特に感動したのがyearsでの演出だ。もともとサカナクションの中でもトップクラスに好きな曲だったが、スクリーンに映し出される映像と歌詞のシンクロ、震えながら重なり合う立体に場内を切り裂くレーザー光線の鮮やかさが世界観を完全に表していた。

また、ユリイカでの前面のスクリーンに故郷を、背後のスクリーンに東京を映す演出なんて憎いではないか。

曲の節目節目に「踊ろう!」と山口一郎が呼びかける。moonで宙に浮いたメンバーが光を受けながら横に揺れている状況なんぞなんというか、完璧だった。心の底から踊るしかない。かと思えばアイデンティティ新宝島などのロックチューンで観客を縦にノらせていく。縦横無尽なセットリストはタイプの違う熱をハコに対流させ、見事な潮目を作り出していた。

目玉である6.1サラウンドも、体感するとこれ無しではいられなくなる。諸手を挙げてノっている身体に音の塊がぶつかってくる感覚は何者にも変えがたい。広すぎない会場だったのが良かったのだろうか。

そして最後のグッドバイで、エンドロールが流れる。これはショーでエンターテイメントなのだ。強烈なオレンジの光に照らされたメンバーの影は、世界の端っこのように寂寥に満ち、かつ悠然として見えた。

ひっくるめるととても良かった。ライブとインタラクティブアートの中間を彷徨うような、ライブ体験の1つの先鋭化された頂点にあるものなのだろう。

会場を出ると4月とは言え肌寒い風が吹いている。北の杜仙台だけはある。さらにこっちはさっきまで無心に踊っていたのだ。Tシャツを肌に張り付かせていた汗が気化し体温を奪っていく。とりあえず最寄り駅に向かう集団を抜け、歩いていける距離の銭湯を目指した。住宅街の中に佇む小さな銭湯だ。ライブ終わりだからだれかしら目星をつけているだろうと思っていたが、中にいたのは明らかな常連さんばかりだった。とりあえずシャワーと風呂で汗を流す。こういういかにも昔ながらの銭湯(見たことないカランだった)も温泉とは違っていいものだ。

サクッと風呂をあがり、待合室でぼーっとしながらTwitterで検索をかけてみる。あまり感想は出てこなかった。探し方が下手なのかもしれないし、むしろインスタで写真付きでアップしている人が多いのかもしれない。アイマスに慣れた身としてはライブ会場で自撮りする人々は全員コスプレイヤーに見えるわけで自分の居る環境のいびつさを感じた。

 

銭湯を離れ、さすがに空いた電車で(それでも何人かライブ帰りと思しき人がいた)宿まで帰る。途中で飯を、あわよくば牛タンを食べようと思っていたが地方都市の9時半過ぎというのは東京の23時半に匹敵する店のまばらさだ。何回行ってもここの時間を読み間違えている気がする。適当な店でラーメンを食べて帰った。ゲストハウスではなにやら併設されたバーが盛り上がっていたが連日の旅の疲れと明日の早さも考慮して就寝した。

 

東北3県旅行①~乳頭温泉編~

土曜日に仙台で開催されるサカナクションのライブが当たり、都合よく前日に休みが取れたので三日間を使った旅行を計画した。行き先を色々と調べたところ、秋田→宮城→福島の山間をまたがる旅程が可能だと判明したので、それぞれで行きたいところを選び、必要なチケットを手配した。GWの前週なので比較的容易に手配は済み、その計画は朝5時、家のベッドの上から始まった。

 

旅行は長時間に限るというのがモットーなので、移動の朝は早い。始発に近い電車に乗り、東京に向かう。そこから盛岡まで一気に新幹線で北上した。東北地方は朝のうち雨の予報だったが、白河の関を越えた辺りで天使の梯子が雲の切れ間から差し込み、盛岡に着いた頃には青空が広がっていた。

とはいえ、盛岡に特段用事があるわけではない。一度来た土地でもある。とりあえずネットの情報に従い、福田パンという著名なコッペパン屋に向かった。各ブログによると連日行列ができるほどと書いてあったがそこは平日の朝である。並ぶこともなく名物のサラダスペシャルとあんバターを購入できた。しかし購入して店を出る頃には軽い行列ができており、更にはテレビカメラのセッティングも店先で始まっていた。人気店だということには疑いがないようだ。

盛岡の主な産業は宮沢賢治石川啄木であり、特に新婚の家を観光スポットにされている石川啄木には同情の余地しかない。そんなことを思いながら盛岡城跡でコッペパンをパクついていると(サラダスペシャルの辛子レンコンが絶品なのだ)、冷静に何をしているのだと言う気分になってきた。幸い、盛岡から今夜の宿である田沢湖駅までの切符はまだ取っていない。調べてみると予定より早く切符が取れそうだった。今回の宿は乳頭温泉郷である。いわゆる秘境の温泉であり、七つの宿で構成されている。予定ではこのうちの一つに泊まる予定だったが、早い時間で到着すれば他の宿の日帰り入浴を楽しめそうだ。おそらく石川啄木の新婚の家よりは居心地がよく過ごせそうだ。

そうと決まればひとり旅の利点、スピード感を見せつけるしかない。さっさと盛岡駅にとんぼ返りし、秋田行きのこまちに乗り込む。この旅用に買った「スローターハウス5」の中で主人公が護送列車から吐き出された辺りでちょうど、田沢湖駅に到着した。

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田沢湖駅。駅舎はきれいだがなにもない

乳頭温泉郷田沢湖駅のメイン観光地、田沢湖から更に20キロ山を分け合った所にある。昭和に建てられたであろうペンキの禿げた道にかかるアーチ「乳頭温泉郷にようこそ」をくぐりまだ雪が深く残る道をぐんぐんと登り、その道の終点で降りた頃にはバスの乗客は四人ほどに減っていた。この時点で時刻は13時。日は高いが山の空気は寒い。空の青さは気持ち白茶けた青で、目を凝らすと木々の隙間にぽっかりと田沢湖が口を開けている。振り返ると温泉の由来でもある乳頭山が名前に恥じないなだらかな稜線を見せておりしかし山頂はCERO指定のせいか雲に隠されていた。つまり温泉にはうってつけの日だった。

湯巡りも無事できたので、各宿の感想をつらつらと。

 

・妙の湯

和モダンな現代的な宿である。ランチをまず食すために向かった。提供された山菜稲庭うどんはあっさりした味付けで非常に美味い。ランチの後は入浴に向かう。ここの宿は男女に分かれた内湯と、混浴の露天風呂の二つを有している。というか乳頭温泉郷の露天風呂は基本混浴だ。温泉の外では湯巡りする女性のグループをよく見たが、ついぞ露天風呂では見なかった。まぁ仕方なしという感じは否めないが、宿によっては分かれている所もあるし時間で男女を区切っている所もある。妙の湯はそんなことはなくオールウェイズ混浴だ。ちなみに私が入った時には外国人のご婦人がいた。そこは大人なのでそれなりにそつなく入っただけだけど。ちなみに景色はとても良かっま。妙の湯の特徴は鉄を含む酸性湯だ。露天風呂から見える滝も鉄分を含んでおりカフェオレ色の流れが石を錆びさせながら滔々と流れている。内湯にも酸性湯はあり、鉄の澱をすくうことができるほどだ。お湯も良いしとにかくこの宿は雰囲気と設備がいい。そんじょそこらのいろんな意味で素朴な宿に耐えられない人はここに泊まると良いと思う。受付の人がどことなく渡辺いっけいに似ていたのもTRICKファンとしては嬉しかった(?)

 

孫六温泉

ここは少し行くのが難しい。メイン通りから1キロ弱、車一台で埋まるような道を歩く必要がある。秘境を肌で感じながら進むと古びた建物群が雪の中に現れるがそれが孫六温泉だ。温泉の種類は男女別の内湯が一つ、混浴露天が二つ。しかし露天の一つは見つけられなかった。というのもこの温泉は宿の外に点在しているからだ。宿泊したらどうかは知らないがもしこれしかないなら宿泊客は辛いだろう。肝心の湯も、ホスピタリティのかけらもない。五畳ほどの空間の中心に二畳くらいの穴が開いており、相当に熱い湯が溜まっている。入浴というよりも沐浴とか、そういう神秘的な儀式をするようななんだか神聖な湯である。てか露天風呂も露天じゃない気がするし。めっちゃ狭いし。いろんな意味でハイレベルだ。だけど入って五分ほどで汗だくになったのでこういう戦いの入浴を求めるバーサーカーにはオススメである。

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静謐な空間。川の音だけがかすかに聞こえる。

 

蟹場温泉

内湯が二つ(岩風呂、木風呂)と混浴露天風呂を有する宿。ここの混浴露天風呂は宿から少し歩いた所にあるが道から丸見えだし湯も透明なので完全に逃げ場がない、ワニブックスに見つかったら一年通してシチュエーションに使われそうな風呂である(時間によって女性専用になる)。かくいう私も一人だと思って露天カラオケをしていたら気づかないうちにもう一人おじさんが入ってきて気まずくなったりした。

内湯は両方硫黄の湯だ。特に木風呂の湯はアチアチで溜まったものではない。発火するかと思った。熱いのが好きな人にはとてもオススメだ。苦手なら岩風呂に入っておくと良い。内湯まで続く木の通路がそこはかとなくインスタに映える気もする。

 

三つの温泉バフを得て無敵になってから満を辞して向かったのが、今回宿泊する大釜温泉だ。事前に得ていた情報だと「湯が熱い」「食事が少ない」「カメムシがいる」などなんだか散々な言われようだったが、結論から言うとそんなことはなかった。湯は程々であったし、食事はきりたんぽ汁定食だと思えば少なくはない(まぁ念のため弁当を持ち込んだのが功を奏したのは確かだ)。カメムシはいるがそれは日本全国にある。ネコと同じでカメムシはいるのだ。

ここの湯は硫黄系である。底をさらえば柔らかな湯の花がすくえる。24時間入れるので、夜中に酒を飲んで入っても平気だ。入るのは平気だがそこからは自己責任なので酒は控えるように。

そんなこんなで宿に到着後は、一回寝て、食事を食い、風呂に入り、ルパンを見ながら弁当を食った。その合間に「山怪」という山での怪奇現象を集めた本を読み進めた。山奥で読めば雰囲気が出るかなと思ったが、内容は動物に化かされたという不思議な話がほとんどで恐怖系ではなかった(それは前書きにも書いてあるけど)。面白かったのはむしろマタギの分布に関する話で、そっちの専門書を読んでもよかったなと感じた。

牛肉弁当で腹を満たし、南部美人を舐めて気分良くなってから温泉に入ると、えもいわれぬ全能感に包まれる。かつてイスファハーンが世界の半分だと宣った王がいたけれど、温泉は世界の全てである。湯の表面から昇り立つ湯気は風によって形を変えながら夜の空気に溶けていく。カサが傾いだ豆電球がチラチラと揺らいだ光を投げかけている。聞こえるのは源泉が掛け流される水音と眼前に迫る山肌を撫でる夜風の音のみだ。人は1日に六万を超える思考をし、そのほとんどがマイナスな思考だそうだけどこういうところでするマイナスな思考は意外と悪くない。人とは愛とは生とはなんなのかを考えながらしばらく湯を堪能した。

ちなみに翌日、アイデンティティがない!と叫ぶことになる。

 

 

 

椅子「オカモト シルフィー」を買った(購入葛藤編)

人生の三割は睡眠に費やされているというのは通説だが、それ以外の時間人間は何をしているのかを考えるとおおむね座っている。職種にもよるがオタク、特にものつくりオタクにとってはその傾向が顕著だ。ものつくりオタクにはいい椅子が必要なのだ。

翻って自分の椅子を見てみると、5年以上使い込み座面を止めるねじは全て喪失、ありもののねじを4つの穴に3つねじ込み使っている有様である。なんともみすぼらしい。Twitterを見ていると椅子が原因で腰をやっているクリエイターは全体の3割にも及ぶ。早急な対策が必要だ。あとせっかく液タブを買ったので、この機会に作業環境をハイグレードにしてやろうという魂胆もあった。なので椅子を買うことにした。

今回椅子に求めた条件は

2万円くらい(この条件は後に破棄される)

・高さ、奥行きが可動式のひじ掛けがついている(液タブを使用する際に使うので)

・前掲姿勢になれる(いい椅子にはリクライニングが付いている。ゆったりゲームしたり映画を見る際は後ろリクライニングだが、絵を描くなどする際には前リクライニングが推奨される)

・ハイバックのもの(背中を預けられるのがハイバック、ヘッドレストもついて頭も預けられるのがエキストラハイバックと呼ばれる)

・ゲーミングチェアでない(ハイバックのものはゲーミングチェアが多く、安価だ。しかしゲーミングチェアはデカいし色が好きではない)

・なんかカッコいい(いい椅子ならカッコよくあるべきだ)

こんなものである。

まずこの条件に合致する椅子を探すとほぼ中古品になる。これは織り込み済みだ。しかしヤフーショッピング、楽天その他で出てくる中古業者は「平日のみ発送」で「時間指定不可」更に「再配達は別料金」である。つまり昼間は世を忍ぶ仮の姿(社会人)に擬態しているオタクには到底受け取れない。なので選択肢はオフィスバスターズになる(土曜発送可能、時間指定もしくは到着時間を教えてくれる)。

どこで買うかを決めたら次は何を買うかである。そして椅子を買った人が口をそろえて言うのが「試し座りをしなさい」ということだ。

だがあえて言いたい。小林よしのりがゴーマンをかますがごとく言いたい。「試し座りは面倒くさい」

試し座りの方法は主に二つ。メーカー直営のショールームに行くか、中古店の実店舗に行くかだ。前者は地理的な面倒くささもあるし、これがまた平日のみのオープンであることが多い(多分)。働く側としてはいいことだけれども、これでは普通に訪れられない。そして後者は地理問題(大体こういう中古屋の大きい店舗は郊外に存在する)と店舗の何となくの暗さがネックだ。「そんなことを面倒くさがるやつがいい椅子を買うな」という意見もあるが、オタクはこういうのが面倒くさいのだ(個人差があります)。

なので今回は試し座りはしなかった。代わりにブランドに頼った。買うのはオカムラの椅子と絞って様々なブランドを漁っていく。有名なメーカーということもあり、中古品でも10万近い椅子がバンバン出てくる。上記の条件を加味しつつオフィスバスターズのサイトから発見したのが「シルフィー」である。

シルフィーの詳しいスペックは公式サイトを参照して欲しいので、惹かれた点を挙げると

・ひじ掛けが可動式:高さ+上下左右+奥行の調整が可能。

・前掲姿勢が可能:シルフィーのリクライニングは4種類。前掲、通常、後ろ、もっと後ろと分かれている。

・背面のカーブ調整機能を搭載:背面の湾曲度を変えることが出来る。機能もいいしこの機能のために背面にカッコいい支えがある。

こんなところだろうか。機能面では申し分ない。問題は価格だが、当初2万円ほどと設定していた気持ちはもう椅子探し後半ではとうに吹き飛んでいた。結局2万ほどではあまり選択肢がなく、唯一フィーゴというブランドのものが候補に挙がっていたがあまり見た目がカッコよくなかった。なのでえいやと、清水の舞台から飛び降りる覚悟で3万円の決済を行ったのだ。

それから2週間、椅子が届いた。

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購入当初「B+」と査定されていた外見は予想よりも状態良く感じた。脚やひじ掛けに汚れ黒ずみはあったが、座ったら見えない部分だしアルコールティッシュなどで拭けばきれいになった。

また自室が2階にあるため椅子の重量を懸念していたのだが、オタクでもなんとか持てる重さだったのでなんとかなった。一人暮らしのマンションなどで買った場合は策を練る必要が出てくるだろう。

機能面については申し分ない。しかし椅子は耐久資材であるので、断続的に感想を書いていこうと思う。

インポッシブル・アーキテクチャ展に行った

建築に疎い人生を送ってきたが、急に自分の中で建築がアツい。なぜかと言うと散髪中にBRUTUSの「ル・コルビジェ特集」を読んだからだ。

その特集を見るまで、何故国立西洋美術館世界遺産になったのかすっかり分からなかった(今でも理解はしていない)がその建築史における特異性だとかピロティ(これを読むまでお祭りで売っている息を吹き込むと音と共に伸びるオモチャみたいな音だなと思っていた)の意味なんてものがうっすら見えてきた。

思えば建築を考えてみたことは無かった気がする。月並みにトマソンだとか、中銀タワーだとかガウディの貝殻が埋め込まれたマンションだとかは知っていたがそれが人間の生活の寄る辺である以上のことを見ていなかった。

 

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そんな反省もありながら向かったのが「インポッシブル・アーキテクチャ展」だった。

朝というよりは昼の時間に起き、のそのそと出支度をして駅に向かう。

夜中までクトゥルフTRPGをやっていたこともあり眠かったけれども、最寄り駅でスパイシたっぷりのラムカレーを食べチャイを飲み終わった頃にはすっかり脳は起きていた。大体カレーを食べておけば自分の機嫌が取れるのだ。甘いチャイを腹に収めたまま書店でケン・リュウ『神の動物園』を買って行きすがらに読む。読み耽る。さすが現代最高峰のSF作家というか実に良かった。

埼玉県立近代美術館北浦和駅からほど近い公園の中に建っている。展覧会は外から見てもわかるほどの人の密度であり、年代も様々だった。

 

結果から言うととても良い展示で、久々に脳の違うところがこじ開けられる感覚を味わえた。建築は建築者と使用者がいて成り立つものだけども、その使用者がいないアンビルドな建築がここまで表現になっているのかという衝撃が凄い。一見意味不明な建築が解説による補助線で朧気ながらも意味を持ち始める瞬間、その(物理的に)どデカイ

意味の前にたじろいでしまうのだ。

・ダニエル・リベスキント『マイクロメガス』

解説いわく、「設計図という3次元を前提とした2次元を意味から脱却させたドローイング」らしい。どーいうこっちゃと思いつつ作品を見ると3次元的を超えた立体感のある線の集合に圧倒される。昔、ジャクソン・ポロックのアクションペインティング作品を見たときのような、脳に許容を超えた意味とかが流れ込んでくるような感覚だった。こんな尖った思想の人物が建築できたのかと思ったらちゃんと仕事しててよかったね、となった。

ヤコブ・チェルニホフのドローイング

ネットを探したら情報が全然ない。絶対にグラフィック畑の人が好きだろと思った色彩と迷いのないドローイング。もはや建築というよりドローイング作品だ。というかさっきからロシア周辺国の話が多い・国威掲揚でバカでかいモニュメントいっぱいあるしな北の方…。

メタボリズム1960

菊竹清訓の「海上都市」黒川紀章の「ヘリックスシティ」「農村都市計画」など魅力的なアイデアが盛りだくさんだ。「農村都市計画」の都市をあるフレームで実現し組み替えられるようにする考えは世界中で行われているようで、「パレスシティ」などの例もあったがやはりわくわくしてしまう。そしてこれらは会場を出たあとの「見えない都市」という映像作品で実際に都内に出現するのだ。CG加工とはいえ家々の隙間から覗くメガアーキテクチャはたまらない。

ザハ・ハディド「国立新競技場」

ここが今回の白眉である。視聴者からすれば「なんかいろいろあって変わったやつ」というくらいの認識を膨大な資料、設計図、証明書で殴ってくる。子供の背丈ほどに分厚い説明書と認可の書類の束はこの労力が灰燼に帰したことを示しているし、それがポッシブルだったという事実を突きつけてくる。これまでの展示であったアンビルド建築とこの建築の差はなんなのか。壁に掲げられた設計事務所のコメントから伺える静かな怒りから目をそらせない。

会田誠 山口晃日本橋案」

現代日本の芸術のトップランナーの二人の案は荒唐無稽なあんだけれどもそれがインポッシブルである意味を考えさせるものだった。仲いいなお前ら。

 

…とまぁ実に示唆的なと言うか、しばらくは作家の名前でググりつつ好奇心を満たせそうないい展覧会だった。問題は明日までということだけども、巡回をまとう。

 

そしてその後は北浦和をマフィンとコーヒーを飲みながらフラフラして帰った。

美術館浴が高まったのでコルビュジエ展も行こうかな…。

 

スパイダーバース見た(吹き替え・IMAX3D

スパイダーバースを見て、スクリーンを出たところで今からスパイダーバースを見る人達とすれ違った。その背中を見て思った。

「TCXで見れば良かった……」

 

スパイダーバースは二時間のスーパーグラフィカルストーリーでありハイパーモーショングラフィックスだ。高揚と快楽、思慮と耽溺のジェットコースターだ。つまり最高である。

基本創作物には加点方式で臨むので総合得点は200那由多を超えるのだけど、何が明確にいいのかというとやはりストーリーだろう。

スパイダーバース、という名に恥じない前設定。ピーターパーカーという存在を殺した後の人々の描写には、そこまでのフリークでない自分に刺さる物もあった。マイルスの思いも一辺倒でなく、日常の些細な(と思える)思春期の悩み、大いなる意志への向き合い方、全てがないまぜになった内面が挙動にも現れる豊かなモーションが、丁寧に積み上げられる全般を引っ張っていく。ここでもコミックを下敷きとしたグラフィックは多く使われているが、むしろ心境を反映したレイアウトの外さなさも光っている。

 

そして話が転がる中盤、ピーター・B・パーカーやグウェンダを柱としてノワール、ペニーパーカー、ピーターポーカーらスパイダーお祭りフェスティバルが開催されつつ、ここで立ち現れるのはヒーローを逆手に取った孤独故の共感だ。現実世界でも似通った悩みを抱える人達が強く結ばれる例はあるが、ヒーローのそれは比ではない。スパイダーセンスでの理解は痛みを共にするというものでもあり、そこには(実力的に)入れないマイルスはヴィジョンズと似ている。すでにあるコミュニティからの阻害を前に透明になってしまう心を、(自称)師であるピーター・B・パーカーは必死に繫ぎ止めようとする。グウェンダとのキーワードになる『友達』だが、Bパーカーにとってもマイルスは、弟子であり、バディだった。

 

そして後半は、めちゃんこな世界観の中で乱痴気バトルが繰り広げられる。ここはもう怒涛の伏線(というか構図)回収なのだけど、そんなことをやるのはわかりきっていても、最高だ。これが始まりの物語となるマイルスのスパイダーマンストーリーは素晴らしいものになるだろう……。

 

とか言っているが、個人的に、趣味でいうならやはり映像が神だった。これを見るために生きてきたと最初見た時本当に思った。カラースクリプトの巧みさ(ハイライトの入れ方!)スウィングの爽快感、ビルの落差を使った描き文字の演出。キメで敵味方関係なく出るコミック表現、完全に気持ちよくなってしまった。あとキャラ萌え。マイルスとBパーカーの師弟関係とグウェンダとの父母ネタ、ペニーパーカーのかわいさとノワールの天然ボケ、ポーカーの版権ネタ……コミコンでなくコミケで本を読みたい。マーベル盛んだもんなその辺。誰か頼む。

 

感想がまとまらないけどとても良かった。スパイダーバース、最高です。とりあえずみんな吹き替えで見て師弟に尊くなってほしい。IMAXの家の中のバトルも最高だしな!!ラストは言わずもがな!

 

日記(3/1〜3/3)

仕事終わりの週末、職場でセリ鍋を食べた。セリと鶏肉と麩で構成された鍋をモリモリと食べ日本酒を飲んでいると「これが完璧……!」という気分になる。完璧なものは思ったよりこの世の中に沢山ある。職場の飲み会といって連想される社会的な会話はあまりなかったのも良かったのか酒が進み、帰宅したら即寝てしまった。

起床すると昼であり、ジムに行く日課は諦めることになった。新宿に行く用事があったので、車内の暇な時間に備えて駅の書店で森見登美彦の『熱帯』を買う。ハードカバーだったが、いわゆるオタク界で言われる1700円は大元へ払う金額としては安い部類だ。あまり読まなくなってから思うが本のコスパは尋常でない。序盤を読み進めつつ新宿へ向かい、コンタクトレンズの度を直した。割と待たされたので綺麗な女性の助手(歯科でいう歯科衛生士のポジションだろうか)を見ていた。目の周りを赤く縁取るメイクは物語性があって良い。

そのあと大学のOB同士の飲み会があったが、そこまで中途半端に時間が空いていたので眼科から喫茶店に向かった。薄暗い店内に置かれたがっしりとした木のカウンターで『熱帯』の続きを読む。氏はファンタジーノベル大賞でデビューしているので元々ファンタジーの人だけれども、そのファンタジーの筆致は年々進化していると感じる。『夜行』よりも自在に世界のトーンを操っているようでページを繰る手が止まらない。貪るように読みふける。ふと横を見ると青年が煙草をふかしながら金原ひとみを読んでいた。

そうして二時間ほど物語とアップルパイと珈琲を味わった後、母校近くの飲み屋でサークルの同期と酒を酌み交わした。当たり前に二時間遅刻してくる同期達は時間感覚以外は相応に歳をとっており、年齢にふさわしい話にあまり綺麗でない花が咲き誇ったという。

そんな中あっさりと終電を逃し、後輩の家に転がり込んだ挙句昔作ったアニメを見て見るに耐えない心持ちになった。二人して松屋の牛丼を食べているうちに寝落ち、朝を迎え震えながら帰宅した。寝床で奇妙な旅の夢を見た。

そして日曜の昼にのそのそと起き出し、原稿を進めたりした。

そんな週末。