続けてもいいから嘘は歌わないで

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長瀬有花という虚焦点にエウレカ!と叫ぶ夜ver.0.99

長瀬有花がライブで音楽を演っていた。という事実に打ちのめされたライブだった。

音楽を歌う人をアーティストと呼ぶのは、音楽を歌う人が音楽のみで完結していないことを指す。アーティストには音楽以外にも多種多様な魅力があり、事実様々な媒体にモデルとして、文筆家としてアーティストは表れたりもする。アーティストの本懐であるライブというのも歌のみにあらず、その世界観や構成、喋りなどの複合的な産物だ。それを長瀬有花はほぼ音楽のみで突っ走りそのままこちらに気をつけてと声をかけて帰っていった。ライブ後、恵比寿~目黒間を踏破しながら頭にはそのことしかなかった。そしてそれはとても幸福なことだ。

長瀬有花はバーチャルシンガーで、エウレカは長瀬の初のリアルで行われるライブだということらしい。らしいというのは私が新参だからでspotifyが突然流してきた『プラネタリネア』に魅了された俺はそれから2度のオンラインライブを経て、初の有観客ライブに参加することを決意した。あとともかく生活が大変だったのでチケットを申し込みその日まで生きる糧とするしかないという事情もあった。はたして俺は無事大変さを乗り越えライブ当日のリキッドルームに到着していた。会場はかなりぎゅうぎゅう。開演まで「バーチャルシンガーのライブってどうなるんだろ(似たイベントはアイマスのあれしか参加したことない)」と思っていると『fake news』を合図に舞台の幕が上がった。最初モニタで歌っていた長瀬が『駆ける、止まる』で三次元に顕現した瞬間会場が本当に呆気にとられてその後爆発的に沸いたの笑った。喧嘩稼業の金剛零式くらい湧いてましたね。あれはやられた。そこから新曲(『近くて遠くて』のドラムンベースめいたリズムが生で披露される凄さよ)を挟んで、曲が間断なく続いていく。そう。このライブはバンドセットであることは告知されていたが、途切れることのないバンドアレンジによる名曲の畳み掛けは圧巻だった。というかこれどこまで行くんだよと思っていたら『お越しいただきありがとうございます〜』とMCが挟まり、ホッとしたのもつかの間また曲が間断なく演奏される。この辺で気づくのだけどこのライブ、MCなんてものはなくひたすら曲がバンドにより演奏されて長瀬が歌い続ける超最高ストイックライブだったのだ。アイマスでも開演前に休憩の有無はアナウンスするぞ。この日ほど「引き続きお楽しみください」という言葉が心強い日もなかった。絶対に長瀬は歌ってくれるしそれは楽しいことだから。

以下箇条書きの感想。

・バンドセットの妙

長瀬有花の楽曲群は必ずしもバンドが前提となっていない。それをバンドセットでアレンジしまくり、かつバンドでしかできないギミック(間断なく曲が変わっていく構成。曲の感想に挟まるソロパート)などを貪欲に行っていく姿勢は、ライブでしかできないことを絶対にやり切るというサービス精神の賜物だったと思う。『ライカ』のメロディが『白昼逃行』に挟まれたとき思わず歓声を上げてしまった。『とろける哲学』の間奏の脱力の気持ちよさ。『アフターユ』とかバンドであんなことになるんだ。『ほんの感想』もシメにしちゃかなりトリッキーだよ!『やがてクラシック』のアレンジ最高!『微熱煙』はもちろんだけど『むじゃきなきもち』が初披露と思えない練度だったのが超良かったです。

・虚焦点としての長瀬有花

俺はアイドルマスターを嗜んでいてキャラクターの2次元と3次元の間の作用については一家言あるキモいオタクだけどライブハウスであるとかアーティストであるとかそういう要素を持つ長瀬有花の、ライブでの実在感というのはたまらないものがあった。人波の合間から『いる!』と思う瞬間瞬間が俺のエウレカ!だった。かつその実在感は架空の長瀬有花を補強しておりその構造を俺は虚焦点に例えたい。何故なら虚焦点という言葉はかっこいいから。フォークス・イマギナーリウス。

虚焦点とは平行光線を凹レンズで拡散させた際、拡散させた線を逆向きに延長して得られる点のことだ。長瀬有花というキャラクタは出自・演出に次元という設定が自覚的に組み込まれていることからその本性を一意的に解釈できないようにされている(さらに言えばMVでの描かれ方もわざと振れ幅を大きく持たせているのではと邪推できる)。俗な言い方をすれば、ライブでロケットから姿を表した3次元の長瀬有花を見て「Vsinger長瀬有花の中の人だ」ではなく「長瀬有花(そのもの)だ!」と俺は思ったわけだ。ここで長瀬有花というキャラクタは2次元の絵でもなく、リキッドルームで観測された3次元の人でもなくそれらの背後にある、俺を含めた観測者たちの脳内にある共通項だ。観測者一人ひとりが観測したものを拡散光とするとそれらをつなぎ合わせると一つの共通項が虚焦点として浮かび上がる。しかしそれは虚ろであり手には取れない。その非実在性を持つ確固たるキャラクタ性が長瀬有花なんじゃないか。バイバイと手を振りながら俺はそんな事を考えていた。

・オタクがたくさんいる

普段の自分の主戦場である同人イベントにいるオタクとライブ会場にいるオタクとでは色々勝手が違うのだなと感じた。前者は思いを作品に固めて精根尽き果てたオタクが死屍累々なのだけど後者は、今回のライブはオタクの熱意と最初の有観客ライブという勢いが会場に満ち満ちておりかつ各々の出自が違う(アニメ、J-POP、もっと在野の音楽諸々)ことが良い方向に、会場の空気を形作っていたと感じた。よくも悪くもというかサブカルだった。ライブの前半に宣託があったように会場のレギュレーションは長瀬を見ることでありそれ以外の各自の過ごし方は自由だったので、存分に踊ることができた。惜しむらくは各楽器のソロでもっと拍手したかった。

アーカイブと同時視聴を見て書きたいことがあったら追記する(2023/9/3)】

 

というライブが終わり、俺は物販でお風呂セットを買い、天一でラーメンチャーハンセットを平らげ、仕事着が詰まったロッカーまで歩く道中プレミアムチケットを購入した。今ではお風呂セットに入っているサウナハットを被って改良湯に行くことだけを夢見ている。あとCLUBNAGASEがmograで8時間のイベントとして開催されることも夢見ています。この脱力は終わらない。

もしくはまだバイバイは続く