続けてもいいから嘘は歌わないで

同人作家の同人以外の雑記が主です

マドリードで日本人ホームレスに会う

今週のお題「行きたい国・行った国」

3年前、コロナウイルスが流行る直前にトルコとスペインへ旅行に行った。トルコで絨毯を売りつけられた話はもうブログに書いたので、スペインであった話を書く。

スペインで日本人のホームレスに遭った話だ。

↓トルコの押し売りの話はこれ

firstlot13.hatenablog.com

スペインのマドリードで宿を取った場所は日本で言う風俗街に近い場所だった。まぁ安い宿を探していたら必然的にそうなるのは仕方ないし、別に宿自体は悪くなかったので我慢して3日ほど滞在していた。そして日本へ帰る前日の夜、腹ごしらえをして宿に帰ろうとしていると「兄ちゃん、靴の紐が解けてるよ」と日本語で声をかけられた。海外の一人旅は本当に日本語を聞いたり話すタイミングがないのでびっくりして振り返ると、そこにボロい服を着てスペイン人3,4人とつるんでいるはげたおじさんがいた。年齢は40代くらいだろうか。風貌はいかついクロちゃんと言った感じだ。要するに怖い人だ。おじさんはニコニコしながら「海外で一人旅?靴紐が解けてるようじゃ一人旅は危険すぎるよ」とハキハキ喋っている。

宿付近の写真。都会なので夜の人通りも多い

語学力のない人間の海外一人旅の鉄則は『人の話はあんまり聞くな』なので無視しようかと思ったが同じ日本語で話しかけられるとそうもいかない。考えすぎて固まっている俺をおじさんはたやすくつるんでいる仲間で取り囲んだ。スペイン人はおじさんよりも年上の男女たちで、何を言っているかはわからない。

「はぁ、まぁ、一人ですけど」なんて言っていると「おじさん日本語久しぶりだからさぁ!いろいろ喋っちゃうけど」とおじさんはべらべら話しだした。聞くとおじさんはホームレスで、近くの教会の炊き出しに参加していたらしい(確かにいる道には教会が面しており、結構な人が出入りしていた)。スペイン人もホームレス仲間だそうだ。

「もともと日本にいたんですか?」と聞くと「そうそう。でも国外退去させられちゃってさ」前科ある人だ!

かいつまんで話すとおじさんはヤのつく自由業に準じた立場の人間で(くわしくはわからない)法的に差し押さえられた不動産を占拠するとかしないとかそういうことをやっていたらしい(ウシジマくんでやれ)。もちろん国に怒られる商売なので、捕まったりした挙げ句高跳びしてマドリードで居着いたんだそうだ。「日本懐かしいよね~。今でもYou Tubeとかでお笑い見るけどさ」と見せてくれたのは当時はやっている一発屋芸人だった。インターネット様々だ。

正直かなりこの時点で気圧されている俺はずっと愛想笑いをしていて、スペイン人のホームレスがくれた食べかけの菓子パンをやむをえず食べたりしていた(これはおじさんに注意された点で『人にもらったものをむやみに食べてはいけない』それはそう)。結局1時間位話されて、ふいにおじさんが言った。

「そこの店でさ、ビール買ってきてよ」

たかられている。

愛想笑い含みで論駁するもおじさんは引かない。「いいじゃん。ここにいる人達に奢ってもさ(全員に奢るやつなんだ、と俺は思った)1000円くらいよ。それで話の種になるなら安いもんでしょ」半身が法の外にいる人間は言うことが違う。俺はなすすべなく酒屋に連れて行かれ(贔屓の酒屋のようだった)瓶ビール6本をホームレスに奢ったのだった。ホームレスは喜んで肩を組んでくれ、感謝の意を表してくれた。グラシアス。私の好きな言葉です。

酒が入るとどんどん話はとっちらかっておじさんはエロい話をし始めた。日本じゃもうとっかえひっかえよ(ウシジマくんだと俺は思った)。スペインでもぶいぶい言わせているらしくやれ白人はどうだの黒人はどうだの、お前も一人旅なら女を抱けだの。愛想笑いをしてごまかしていると遠くからパトカーの音が聞こえた。するとホームレスたちはさっと素面に戻り瓶を見えない位置に隠す。ほどなくしてパトカーが通りを通り過ぎていった。そう、海外で路上飲酒は犯罪なのだ。

酒盛りは再開され、何故かそこにもう一人日本人女子が通りかかった。俺より年下だったか、しかし一人旅経験は豊富なようでアフリカからポルトガル経由でスペインに入国し次はグラナダに行くという強者だった。おじさんは女子に気を良くして同じ手口でホームレスに酒を奢らせていた。俺はその間ホームレスのおばあちゃんにサンチャゴ・デ・コンポステラに行けとしきりに迫られていた(オムレツ美味しいよねの一本槍でしのいでいたと記憶している)。

ついにおじさんは俺を風俗に連れて行こうとし、俺と日本人女子を連れて歩き出した。ここでおじさん以外の二人の利害は一致した。海外で友だちができるのは利害が一致したときだ。アフリカ人と革製品を売りつけられそうになったときもそうだった。利害は言語の壁を超える。まして同郷ならなおさらだ。俺たちは口八丁手八丁で宿に帰らねばとおじさんを説得し、おじさんは不服そうだったが納得し、握手して俺たちを返してくれた。「同じところにいるからまたきてな」という言葉を残して。

俺と女子は足早にその場を去った。

 

翌日、朝空港に向かおうとして俺が同じ道を通ると、例の教会の前におじさん含むホームレスの集団が屯していた。俺は素早く道を一本ずらし、空港に向かう地下鉄に乗り、駅を間違えて下車して狼狽した結果なんとか飛行機に乗り込んだ。

 

そうして3年が経ち俺は友達にこの話をしてややウケをいただいている。瓶ビール分は儲けたような気もしている。この話を思い出すたびに思うのは「なんとかなる人はいるんだなぁ」ということだ。強かな人は強かに生きている。憎まれっ子世に憚るというか、そういう味を俺はこの話に感じている。

スペインではトレドにも行った。トレド素敵なのでおすすめです